天丼に鰻丼か、ブフ・ブルギニヨンとフォアグラか…でもその余韻は山の泉のごとく@立川志の輔独演会(新宿・東京)


。。。実は先週、立て続けに落語会のチケットが取れなかったんです(涙)。12月17日の立川談春独演会@有楽町、11月21日の立川志の輔独演会@新宿。まぁどちらもプラチナチケットですよね、無理もないといえばそうだ(でも涙)。売り出し直後に電話繋がったのに、ダメ。あぁぁ今年はそんなふうに暮れていくのかしらん…よーし、この日の志の輔さんの独演会、思いっきり楽しむぞ〜!と新宿へ向かったのでありました。


パチパチパチ。志の八さんが袖に下がって、いよいよ志の輔さん登場だ〜と誰もが思った瞬間、その予定調和的な期待感に満ちた会場の空気がさっと変わったっ!

え〜なんだか家にいても寂しいんで、久し振りに自分で着物持って来ちゃったんです。兄さん、前座に出して!って。

。。。な、なんとっ!。。談春さん。会場はやんやの拍手に包まれました。何で、チケットとれなかったあの人がここに。えっえ!?


始まったのは、夜更けの暗い道で、閉めだしをくった幼なじみ同士が出会うところから始まる「宮戸川」。…おっと先月志らくさんで聞いた噺です。ゆったりとして、でも貫録のある喋り。それでいて、他人の独演会に突然飛びこんで会場のスイッチを切り替えてしまう見事なまでの道化的な力。談春さんって、そんな両刀遣い(?)じゃないでしょうか。クラシックは同じ曲でも指揮者が違うと、印象が変わる。逆に、そんな違いを生み出せるのが優れた指揮者なのかもしれません。オーケストラじゃないけれど、自分も含めて観客のつくる雰囲気は、噺家の力によって変わることは十分あるのだと思います。会場にいた我々はみな、やんややんやの状態。間違いなくギアが一段高くなっていたと思います。この日客席からの反応は、最後までいつもより大きく派手なものに感じられました。もちろん自分も含めて(笑)。


この後登場した志の輔さん。やり難かっただろうなぁと思いながらも、同時に普段とは違うこの異質さを楽しんでいたかもしれません。それぐらいしっかりと、盛り上がった空気を自分のものにしていました。一席目は「茶の湯」。たまたま先週末に、初めて(お稽古)茶会なるものに参加させてもらったばかり。いろいろな作法や所作が思い出され、だから余計に笑えちゃいます。その偶然だけでも思わずにんまり。お茶の世界を軽〜く皮肉るようにもとれる、ご隠居と小僧のとぼけた掛け合い、怪しい茶会仁招かれた店子同士のどたばた…いやぁ頬は突っ張るし涙が出てきちゃいました。


さて、新宿の独演会名物といえば、松元ヒロさんの「今日のニュース」。いつも見事に身体がニュースを読み上げるのですが、これまたいつもより動きが大きく素晴らしくみえたのは、こちらが盛り上がっちゃってるせいだけなのかかしらん。会場の反応も今までにないぐらいの盛り上がりで、声たてて笑ってるおば様とか。と続いて志の輔さん。枕もなく滑り出したのは「帯久」という噺。よくまぁこんなキャラを考えたもんだな…と感心しながらも、実はこんなやつにもモデルがいたのかもしれないな…。志の輔さんのエンジンも一段と回転が高まってるみたいで、いつも以上に勢いのようなものが伝わってきます。それでいて、冷静さも。噺の途中で状況説明のために入る、解説というかナレーションも、盛り上がったものや前のめりになってる聴衆の気持ちを挫くことなく、さらっとこなしていきます。あれよあれよという間に落ちてしまう和泉屋主人と帯久の対照的な描き分け、奉行とのやりとり…ちょっとした身体の向きだけじゃなくて、表情の大きさや動作まで見事に違えてます(こういう点が前座の若手とは違ってみえるんだな…と分かってきました)。。。ふう。


19時からの2時間半、安田生命ホールには、今までに経験したことがないような、とっても濃密な時間が流れてました。前菜の前のアミューズからデザートまでいつも以上にしっかりとって、おまけにチーズまで食べちゃった…気分です。それなのに、終わった後は心地良さは、気持ちよくぱっと目覚めたときのごとく、すっきり。なんと素敵な体験だったかと、今でもあの興奮がよみがえるのでありました。あぁ、また味わいたいなぁ〜クセになっちゃった(笑)。