横浜酩酊逍遥@鳥伊勢〜日の出理容院〜味珍

鶉焼きを食べて、関内駅のすぐそばの鳥伊勢を出た時は、何も変わったことはありませんでした。研き込まれた綺麗な白木のカウンターや、ずっしりとした銀製だというヤカンから注がれる樽酒(大関)のスッキリとした香りのことを思い返しながら、いつものように歩いていただけです。信号を渡り、伊勢佐木町モールの入り口を見た記憶は、ちゃんと残ってます。吉田町辺りで裏道にそれた辺りから、なんだか怪しくなりはじめたような気がするんです。暖簾の脇にあるだけのこぢんまりとしたネオン、暗いビルの流れ、すれ違う人もほとんどいない。ここ、どこだっけ?今日は何日だっけ?。酔いも回ってきた頭に、そんな呪文のような言葉が波のように寄せてきたようです。もう、どうでもいい気分。


大岡川の橋の上からの眺めは、両岸で随分と違って見えました。渡ろうとしている側は、川に沿って川の流れと同じ形をした壁のようなビルが延びています。渡ってみると、ずらりと並んだネオン看板。でも一階は一面シャッターが降りている中で、一軒だけ明かりが灯って、商品が並んでいる。それも、なんと靴屋だ。なぜ?誰も歩いていないのに。立ち話をきさくにする、店の親父さん。それがかえってなんだかしっくり来ない、酔っ払い。靴屋は世を忍ぶ仮の姿か?唐突に、夜になると団地が宇宙人の住み処に入れ替わっている…というウルトラセブンの一話がよみがってきます。



ふわふわとしてきた足取りのまま、円弧のように並んだシャッター街を通り過ぎつつ、ふと振り返ると一本の細い路地が、おい でおいでをしています。その路地の右手に、看板もない薄暗い店が。店のガラスを透して、明かりも見えない店内に、人とおぼしき影が二つ三つ。ガラス扉には日の出理容院という文字。その後は、ジム・ビームのソーダ割を喉に注ぎつつ、裏返しになった店名の文字をぼーっと眺め、手元の頼りない蝋燭を頼りにほとんど手探りで、落花生の殻を剥いてた自分がいたような気がします。


…気がつくと、タクシーに乗っていました。車が止まったので降りてみると、大きな広場。横浜駅西口でした。とことこと東急ホテルの脇を入ってゆき、右に折れて、「狸小路」と書かれた道に吸い込まれました。 
カウンターに席を取り、教えられるがままに小皿にたっぷりと辛子をとり、そこに酢を注ぎ溶きます。ここは、味珍というお店だそうです。「やかん!」という声の後に、こするとランプの精が出てきそうな、首が細くて長い容器が出てきて焼酎がグラスに満たされます。「い」「お」「らっぱ」「みみ」「あたま」…まるで何かの符丁のような言葉が、最近ではあまり見かけない、若いのにキビキビと気持ち良く働く店員さんと客の間で交わされます。しばらくすると、中華風でも沖縄系でも無い、醤油味のほんのりする丁寧に調理された豚肉が現れるのです。さらにどんと盛られたそれは、そのままでもなかなかいけますが、辛子を溶いたタレが、憎たらしいぐらいに、ほんとによく合います。

このタレのいい具合の辛さが、現実に呼び戻してくれる効果もあったようで、目を覚ますと帰りの電車の中になぜか乗っているのでした。あぁ、なんて夜なんでしょうか。再見。


- 鳥伊勢(関内店)横浜市中区港町2-9 電話:045-662-9236 17:00〜23:00 日曜休み  ※他に伊勢佐木本店と桜木町駅前店あり

- 日の出理容店院 横浜市中区宮川町1-8(食べログより)

- 味珍(まいちん)横浜市西区南幸1-2-2 電話:045-312-4027 16:30〜22:30 日曜祭日休み