連想させるカタチ

最近体験したものから、印象に残っているものを、いくつか忘れないうちに、メモしておきます。

骨展@21-21(六本木、東京) 8月30日まで

「骨展」には、いろんな"骨"が並んでいました。普段は見えないフェアレディZの骨(シャーシ)は、フロントがごっそりなく(クラッシャブルゾーンなのでしょうね)、車軸が通る部分がまるで双胴船を思わせます。実際には脊椎動物のような骨がない蜘蛛を、骨(内骨格)があるとしてつくったものは、妙にリアルさを醸し出しています。他にも、微妙な重さやテンションだけで成立している、骨と皮の関係を部屋のような空間で表したもの、などなど。見てはいけないものを見たくなる好奇心のような感覚や、生物と無生物の境界がゆらぐような危うい感覚などが、混じり合って軽く酔うような気分になります。


その中の一品、山中研究室が出していた"Flagella(鞭毛)"という名前の、腕のように動く物体がありました。しっとりとして滑らかな表面は、子供の頃に見た蛭を思い出す濃い紫色に塗られた、それの動きに惹きつけられながら、こんなことを思いました。それが、"柔らかいのだろうな"と感じるのは、どんな動き方をしているものなのか。


自分の目の前でうごめいているのは、どうみても、素材としてはちっとも柔らかく無さそうです。でも、ちょっとカーブを持った複数の円筒状のものが連なっていて、それが個々に回転すると、実に滑らかに全体ひとつの曲線を作りながら変化し、玉子のようのな壊れやすいものもそっと触るように扱う、とてもソフトな動きに見えてしまうのです。まるで、ゴムの被膜を持った生物のような。


「鞭毛は、生物の器官の中で唯一、回転運動をするものです」と説明書きに名前の由来が記されています。頭の中に浮かんでいたのは、先日TVでみたダンサーの、なんともしなやかに波打つような腕の動きでした。あれは確かに、波打つように動かしているだけではなく、肘や手首を、少しずらしながら回転させているようにみえたのです(そんなことができるのかどうかは、わからないんですが)。
骨のように堅い物質でも、動きひとつで柔らかさを感じてしまう。可能性というのは、いろんなアプローチがあるものですね。


AXISフォーラム・阿部雅世さん「感覚の美をデザインに求めて」

一方こちらは、人間の持つ思い込みを、楽しい方向に磨くもの。福岡伸一さんの「動的平衡」の中に、火星の表面写真に人間の顔などをみたり、トーストの焼け焦げ方がキリストに見えたりした例などが幾つもでています。模様のようなものの中に、顔のようなものを見いだしてしまうのは人間の特性である、と。


ならば、それを逆に磨いてしまったら…というアプローチともいえるのかなと思ったのが、阿部雅世さんが紹介してくれた"デザイン体操"。自然の造形の中に、アルファベットや数字にみえるカタチをみつけていく、感覚の訓練です。「大人はなかなか見つけられないけど、子供は早いんですよ」と、ベルリン芸大を中心に欧州各地でハプティクス(触感)という切り口でワークショップやクラスを続けている、阿部さん。


23やってきたという中から、主なワークショップを次々と紹介してくれたのですが、どれも始まりを聞くと漠然としているように思えるのに、しっかりプロセスがあるのが印象的でした。ただ、ワークショップの最後の部分では、出てきたアイデアを、造形したものの中から"これ!"というものを発見できるかどうかにかかっているという、緊張感を感じました。"デザイン体操"は、そういう感覚を養う訓練にもなっているのだと思います。最近個人的に興味を持っている、ダイアローグのワークショップに通じるものがあるような気がします。


プロセスの一例は、「日本語には、豊かなオノマトペがあるけれど、英語などにはない。触感的なものを扱うには、参加者とそのための言葉を作ることからはじめました」というもの。ピタゴラスイッチには、「オノマトペのうた」という楽しい歌がありますが、日本語ならではを活かした遊びだったんですねぇ。それにしても、作られた言葉には言葉の意味や由来はまったくわからないけれど、言葉を音で聞くと何となくわかるような気がするものもあるのが、面白いです。


「ワークショップの最後は、必ず展覧会を開きます。デザインは、プライベートをパブリックにするものですから」という言葉。全体を通じてとてもチャーミングな人柄が溢れていました。それゆえ、社会に発するところが大事、というこの言葉の強さや重さが伝わってきます。それさえも、はにかんだような笑顔でさらりと伝えてしまう方なのですが。


ベルリンからはるばるやってきた、見た目でも触感をいろいろ想像できる楽しい作品のなかに、カプセルを少しずつ向きを変えながら縦に並べたものがありました。円筒形、です。これも回転する滑らかな動きを、想像してしまいました。他にも見慣れた素材が、並べ方や組み合わせ方ひとつで、様々な触感に姿を変えるのが、面白いです、これ。


電車の中に掲げられている、路線図の中にいろんなアルファベットをみつけ、一人でちょっとにんまりしながらの帰り道でした。