ちょっと切ない、野毛の夜席@志らく百席・第33回(野毛、横浜市)


 夜は前線が通過して雨になるという日曜日、にぎわい座は立川志らくさんが持ちネタから選んだ百の噺を順にかけていくという、志らく百席。残りは、あと四席。これは、聴き逃したくありません。おまけに、にぎわい座です。ここに初めて来た頃は、野毛というのがよく分からなかったのですが、幸いにも横浜通の方にあれこれ教えてもらったら、まぁなんと素晴らしいところなんだ(笑)。この日はにぎわい座が初めての家人とともに、入館の前に「バジル」でサラダとカルパッチョ、お供にワイン。落語で「小腹が空いたから、ちょっと蕎麦でも…」なんていうのはこういう感じなんだろうな。で、次はにぎわい座の売店で、あいすくりんを買った家人と席へ(にぎわい座の席には、小さなテーブルがついてて、邪魔にならないような飲食はOKなのです)。


さて、らく次さんの「雛鍔」に続いて、志らくさんが登場。いきなり、風邪をひいて昨日は一日寝込んでいたと、衝撃の告白。といいつつ、40度の熱でやった人情噺はどうやったかまったく記憶がなかったけれど、テープを聞いたら自分でもほれぼれ…みたいな経験も披露して盛り上げつつ、旅にちなんだ話へ。家元の世話をしていた時代の話から、最近山形と箱根で"立川志らく"で泊まったけれど認知度ゼロだった…とか、圓楽師匠の思い出やエピソードで、自分も周りも、志らくさんの体調がとっても悪いなんてことを忘れるぐらいの盛り上がり。いつもは三席のところ、今日は一席少ないので長めのマクラだったんですが、これはこれでよかったですね。もっと濃い聴衆の会では、一席でも多く聞きたい!という声が多いかもしれませんけど、にぎわい座のようにちょっとゆるい雰囲気のところでは、こういう構成もいいんじゃないかなぁ。


一席目は「二人旅」。確か家元が"好きな話の一つ"といっていたような。旅という状況設定よりも、とぼけた二人のちょっとばかばかしい、テンポのいい掛け合いが楽しい噺(でも、一度も聞いたことなくて、この噺を本で読んだら辛いだろうなぁ)。こういう噺は、志らくさんの突き抜けるところが見事にマッチして、いつもスゴイと思っちゃいます。さすがに完調の時とは違いましたけど(今年6月の独演会では、「二人旅」とそれに続けて「萬金丹」を)、こういう時はこういう時の盛り上げ方。大爆笑連続のマクラで一気に高まったものを、最後の「双蝶々」に向けて、やや落ち着いた流れにしつつしっかり客席をからめとり。


金曜日に志の輔さんがやった「政談・月の鏡」が圓朝作なら、「双蝶々」もそうなんですね。で、いきなり落語には珍しい子供が登場。こういうところも、圓朝作という噺は、なんとなく小説的な印象を持ってしまうんですが、やはり今に連なる日本語の流れができた、明治という時代だから当然なのかもしれませんね。この、長吉のいわば半生記。あれこれと悪事を重ねて最後には…という。何か下になるような事件でもあったんでしょうかねぇ。何だか、オリジナルはもっとどろどろしているような気もしちゃいました。


いったん降りかけた幕が、再び上がって、志らくさん。最後の最後に、立川文都さんの話を。残念ながら、文都さんの噺は聴いたことありませんが、志らくさんとは入門が一年違い、二つ目昇進は同じ年と、関わりがいろいろあった方なんですね。志らくさんは、声を詰まらせながら「ホントに間の悪い…」なんてことをいいながら、あれこれを思い出話をしてくれました。そんなことを聞きながら、例えどんなに体調が悪かろうが、今日の会で「この人のことを伝えなくちゃ!」という気持ちで、志らくさんはこの日高座に上がったんじゃないかと、そんなふうに感じてました。文都さん、どうぞ安らかに…。