やめられない、とまらない、志の輔らくご@赤坂ACTシアター(2009年10月30日、東京)

赤坂アクトシアターで、初めての「志の輔らくご」。新しいだけあってなかなかいい雰囲気のホールですね(新しくても今一つというホールもありますけど)。客席は前後で半席ずつずらしているので、目のお客で影になりにくいし、後席にいくに従って段差がきっちりあるので舞台が見やすい。もっとも志の輔さんは、「舞台が一番の底にあるみたい。初めて経験する"高座"だ」って言ってましたけど。


感覚的なものですけれど、志の輔さんの会に来ているお客の中には、"落語を聴くことそのものが初めて"だったり、"志の輔さん以外の会に行ったことがない"という人が、そこそこ多い割合で含まれているのではないでしょうか(1年前まで僕も後者でしたし、未だに寄席に行ったことがないし…)。これ、いわゆるイメージとして、な〜んとなく誰もが持っている"笑点的落語の世界"とは、かなり異質なものだと思いますよ(なので、らくごと表しているのだと思います)。そんなお客構成を想定して、それでも楽しませちゃうぞ〜!というのが、ライブ・志の輔らくご。これを二日で3回、計4千人ぐらいに(お疲れさまですっ)。水戸黄門ばりに、全国各地に落語会で行った時の話題をマクラに。これで今日の観客のツボを探っているのでしょうね。そう思いながらも、こっちも大笑い。なんていうのか、「ボケと突っ込み」じゃなくて、「くすぐっちゃうぞ〜」「え〜じゃぁ、くすぐって〜」みたいな。。。文字にすると変態だな、こりゃ。えぇと、別の言い方をすれば、観客が「なんでも受け入れちゃうよ〜」状態になる。変に力むことなく。


師匠・談志が落語協会を飛び出したことで、寄席で経験を積むことが出来なくなってしまった志の輔さんですが、志の輔さんご本人は寄席にでることが出来なくなったことを哀れむ先輩達を尻目に、新しい世界を切り開くことこそ!と邁進した、と著書に書かれてますし、江戸や東京とは違う世界で育った故にそれを特徴にするためにはどうしたらいいかを考え抜いた、とも。いつまでもチャレンジャーで、開拓者。この日も「初めての会場でやるのは楽しい」と。そこが志の輔さんの魅力の一部なのでしょうが、最早すごいなぁという言葉しか浮かびません。これだけの人が、走るの止めないって。


前座無しで登場した志の輔さん、この日は「はんどたおる」、「ねずみ」、仲入り後に「政談・月の鏡」(この構成を、糸井さんはほぼ日の「今日のダーリン」で"新作・古典・実験作"と見事に表現してました)。久し振りの「はんどたおる」、このいきなり!の始まり方が個人的には好きですねぇ。なんてったってスーパーの特売のシュークリームとハンドタオル。誰でもが目に浮かぶはずの、でもたいそうなものじゃない組み合わせ。噛みあわない夫婦のバトルっていう"内"だけでも凄い(端から見てるから楽しい…)のに、新聞屋のお兄ちゃんという"外"が絡んできて、チクリ。何といいますか、現代版長屋のワンシーンみたいな、新作なのに古典の王道かもしれない…と思う噺ではないでしょうか。
さて、志の輔さんの会は何かサプライズ的なお楽しみが間に挟まることが多いのですが、この日はここで三味線・太鼓・笛。曲の合間に小さく調音していたり、笛を持ち替えたりなんていうのも楽しめるのは、ライブならではです。
着物を替えて、再び登場した志の輔さんは舞台を仙台に移して「ねずみ」。名工の作品を扱った落語は他にもいくつかあったように思いますが、この噺はやはり卯の吉(子供)のこまっしゃくれた言動と、題材としては十分資格があるのに人情噺にいかないところが、個人的にはお気に入りです。


袴姿で登場した志の輔さん、〆の一席は背後のスクリーン板(?)と共演して「政談・月の鏡」。圓朝がサスペンスに挑んで…と紹介して始まり。複雑な筋をところどころ背後のスクリーンで投影(シーズン7が始まった24の手法)していくという構成。駅伝の中継みたい。実はこれ、一昨年の夏に体験したことがあって、その時は呆気にとられちゃったやつ。今日は二度目ということもあってじっくり。登場人物もシーンごとに違って、最後にはつながるんだけど、独立してみえるから出演者数もかなりのもの。屋敷だったり、小間物屋だったり、長屋だったり、吉原だったり。なので、聴く方はいつも以上に集中しながら、いつもと違う再構成せにゃついていけない。この辺りが、"もしかしたら失敗作!?"なんていわれる所以なのかしれませんし、あるいは牡丹灯籠みたいに何日もかけてやったものなのかと思っちゃいました。


改めて思うのは、ここに集まった人たちの多くは「志の輔さん」を楽しみに来たんだよなぁと、はい。もちろん、こっちも思いきり楽しませていただきますヨ〜(笑)。



…奇しくもこの日、訃報が伝えられた三遊亭圓楽師匠と、立川文都師匠のご冥福をお祈りいたします。