(多分)あなたも知らない…日本酒の世界


いえいえ、もちろん自分が知らなかったということなんです。日本酒は、なんといっても自分が最初に上手いと思った酒(学生時代は他にビールかウイスキーぐらいだったからかもしれませんが^_^;)だから、一時期あれこれ飲んで回って楽しんでた。10年ぐらい前には"熟成酒"なるものにも遭遇し、そういう世界もあるんだなと日本酒ワールドをとらえ直す機会もあった。そんな、何となく分かっていると思っているものほど「えっ!?」というものに出会うと足下がぐらっとするような新鮮さ!そういう点では人も酒も代わりはないですね(爆)。今回は奇しくも栃木県の酒にお世話になった二件。



- 山の湧き水のような30年寝太郎
1970〜1980年代物のビンテージ。しかも、日本酒で。おまけに年間平均気温10度前後、湿度90%というまさにワインセラー状態の寝床でぐっすり。それでいて、アメ色もついていなければ(※寝かせた日本酒は、紹興酒のような色と香りに近づいていくという特徴を持ったものがあって、多分そちらのタイプの方が知られている)、香りもスッキリ。小さい頃、今は亡き父に連れられて熊笹の林をさまよってたどり着いた蓼科の湧き水を思い出すような柔らかく舌の上でころころと転がるような心地よさ。(個人的にはあまり得意ではない)吟醸の華やかな香りがいい具合に抜けてまたすっきり。この企画をセッティングしてくれたメンバーが蔵の方と既知の仲ということで、こんな幸運に恵まれました。家に帰って昔参加した長期熟成酒研究会のリストを眺めると、色が付いて紹興酒のように味わいが変化するのは主に普通酒から純米酒に多く、吟醸酒は色もほとんどつかず…という傾向の違いがあることを今さらながら認識しました。なるほど。それにしても、来年30周年を迎えて休刊する「広告批評」(T_T)が生まれた頃、バブルの前のタイムカプセルがこんなカタチで登場するとは驚くやらウレシイやら。



この酒の主は、那珂川の上流、栃木県烏山市の島崎酒造。終戦時に戦車の部品工場として稼働すべく作られたけど敗戦で使われることなくそのままになっていた一山をくりぬく坑道を熟成庫として使っているのだそうだ。一升瓶にして20万本が貯蔵可能という規模、コウモリも棲み、時に沢蟹も出現するというひんやりとした暗闇。廃線のトンネルや海の底に眠る日本酒や焼酎、泡盛の話は聞いたことがありますが、社長さんがこの坑道を掘ることに関わられていたので、地元の人もほとんど知らないというこの場所を知っていたというのが由来。しかも、ここで個人の酒を熟成することや、蔵を開放したりなんていうこともされていて、閉じていないところがいいですねぇ。そうそう、一緒にご馳走になったのが、クリームチーズ酒粕漬け。小さなサイコロ状に切られたそれはまた初めての味わい。チーズでありながら、和な感じで頭が一瞬混乱するのが楽しいですよ〜。見学は予約をすればどなたでもできますから、あちら方面にいかれる時には候補にしておくと楽しめるかと。もちろん、あっちもそっちも買い込んでしまいました。。。


- 準主役級の食材〜調味料として出汁として
さて。煮切った日本酒と梅干しを合わせた煎り酒(?)をちょんちょんとつけて食べるサヨリや雲丹。同じく煮切った日本酒と鰹出汁を合わせ、それで餅のように直方体に綺麗に切られた鮪のトロと葱を合わせる、これが噂のねぎま鍋。ちょっと前までご先祖様立ちはこんなものを食べていたのか…というより、日本酒ってこんなところにまで使われていたとは恐るべし。これを使った卵焼きは、昔ながらの甘味がしっかりしたタイプなのに、それが残らない。いや、こんな卵焼き初めてだ。さすがに江戸前料理を掲げるお店です。それにしても、こういう使い方はいつごろどうして途絶えてしまったんだろうなぁ。ワインを使ったあちらの料理に匹敵するようなところまで行きかけていたんじゃないか!?と思うことしきりであります。ちなみにこちらの冷酒は栃木・宇都宮で四季桜を造る宇都宮酒造の「黄ぶな」。スッキリとしながらも適度なボディで思わず杯が空いてしまう危険な酒。



山手線・大塚の駅前とはずいぶん違う雰囲気の一角。割烹がいきなり何軒も登場する古そうな町並みの中に、江戸前料理をうたうこのお店はありました。時期によって変わるものの基本的に一つのコースメニュー。4月はそれがねぎま鍋なんです。実家にいた頃、母が作ってくれたそれはもっと醤油の味がしっかりした煮物料理。それはそれで好物の一つで、ご飯のおかずに時々リクエストしてました。名前は同じでも、全くの別物。江戸も中期になると銚子で醤油も作られ始めていたようですが、醤油を使わない食べ方として刺し身のつけだれもこの鍋も食べることができるんです。それが珍しいという域ではなく、パラレルワールドのごとく一つの完成形にみえます。(もちろん、江戸の住民の全てじゃないにせよ)こういう食べ方をしていたんですねぇ、あの頃の方々は。そんなことを思えるだけでもとても楽しい時間。一緒に鍋に入るのが、独活、ミツバ、若布。あぁ、そういう春の三役もいいなぁとこちらも改めて新鮮。見かけや口当たりは一瞬肉そのものに思えるけれど、後口のさっぱり感やふんわりとした食べ心地はやはり別物。普段トロを苦手にしてるのにお替わりが進むのが、自分でも面白い体験です。
一頻りいただいた後に、出汁を足してこれを炊き立てのご飯にぶっかけて茶漬けのようにしてかっ込むのが、またなんというか、つるつるいける。なんだ、これ状態。結局お櫃を平らげて、もう食べられない。ふうぅ。。。「6月の鮎もまた格別ですよ」という女将のささやきが、なんとか微かに働いている脳にインプットされて、またいつもの世界に戻っていくのでありました。




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