梅雨入り直前@琉球料理乃山本彩香(那覇市、沖縄)


毎年何度か、通うかのように沖縄にいくようになって、そろそろ9年。もう無くなってしまったり、移転したりしたお店もあります。その一方で、このお店があるから、いまでも最低年1回は那覇に行く、というぼくにとってとても大事な存在がこの「琉球料理の山本彩香」です。那覇に行く時は、まずお店の予約が取れることを確かめてから、飛行機のチケットを取りますよ。予約取れなかったら沖縄行きの日程を変えちゃいます。そんなお店なんですが、今回はGWの直後ということもあったんでしょうね、自分を入れてお客さんは三名!だけ。いやぁ〜、初めてです、こういう状態は。いつになく、ゆったりと落ち着いて、過ごすことが出来て、ラッキーでした。


このブログに書いたお店の多くは、初めて、もしくは二度いったところで、何かしら気になったり気に入った点があって、もう一度来てみようと思ったところです。このお店は、ブログをはじめる前に、何度も来ていたこともあって、いままでちゃんと取り上げてませんでした。でも、一度書いておこうと。


営業は夜のみ、数年前から8千円のコースだけ。ちょっと気軽に覗いてみる…というには、敷居が高いかもしれません。料理も、沖縄に来た方のために、アレンジをしているわけではありません。中華料理やエスニック料理で、日本風にしているものと、現地のオリジナルに近いものと、二通りに分かれるのに似ているかもしれませんね。


このお店が好きな理由はたくさんあるんですが、そのひとつは、常に新しい工夫をしていること、ただ昔のものを伝えることに留まっていないことです。現代の食材や保存事情などを考慮して、変えるほうがいいと思える部分は、どんどん変えている。例えば、豚肉を塩で漬けた、すーちかー。元々は保存食ですけど、今は冷蔵庫が当たり前です。そこで、冷蔵庫を使い、ラップをして、塩の量も減らせる方法を工夫して作り出す(この方法は、去年NHKの「今日の料理」に掲載もされていました)。塩に浸ける時間や抜き方、食感から盛りつけと、考えられるのはもちろん、お店の一品にする時はそれに留まらず、これを軽〜く炙って、ひぱーち(島胡椒)をホンの少しふって、食感や香りをより整える。そして、これに添えられているのは、時期があえば、しーくわーさー、外れていれば、レモン。琉球の料理であることを保ちつつ、もっと出来ることはないかと、いつも考えている。易きに流れる向きではなく。だから、同じように見えるメニューも、季節や工夫で、どこかが新しい。それが、このお店が、そして料理が、それを作り供してくれる方たちとの会話が、気になり、楽しみにしているひとつなんです。


5月に訪問したのは、今回が初めてでした。あっさり目の味の次は、しっかり目のもの。重めのもののあとには、軽めのもの。10品以上のメニュー(←たっぷり!)の最後に、間引きされた青いマンゴーが、漬物で登場しました。沖縄らしい果物のひとつ、マンゴーの小さな実を、なんとか使えないかといろいろ試して、漬物にされたのだそうです。見た目は、皮を剥いた茄子とか栗のようですが、こんなに小さくてもあの甘さに通じるものと、酸っぱさ。それに意外にしっかりとしたしゃくしゃくとした食感が、食事の〆に、心地良かった。
先週までは、別の果物(カニステル)だったそうですし、短期間しか出すことができない食材でも、それぞれに適した手の加え方を、いつも考えている。料理の味はもちろん、お替りしたくなるほど大好きですけれど、料理や素材の由来や背景、工夫。そういうことまで、楽しみ、味わえる。そんな、ちょっと贅沢かもしれない欲求にも、いつも応えてくれるお店は、自分のリストの中に、まだまだけっして多くありませんから、まだまだ足を運ぶことは間違いないでしょうね。
この三日後に、沖縄は梅雨に入りました。

 那覇市久米1-16-13(電話:098-868-3456) 営業は月木金土 要予約




追記:
すでに、沖縄の新聞や、いくつかのブログにもでているので、多くの方がご存知だと思います。琉球料理乃山本彩香は八月末で閉店となるそうです。ぼくがこのお店のことを知った、さとなおさんのサイトにも、そのことがでています。
詳しい理由は知る由もないですが、時間をかけて考えた末に、決断されたのだと思います。かけがえのないお店でしたから、ほんとうに残念ではありますけど、長い間お疲れさまでした!そして、本当にありがとうございました!!
このお店の料理、山本さん、お店の方々などを通じて、いろんな沖縄を知るきっかけをもらいました。ぼくの周りにも、沖縄に興味を持つ人が、少しずつ増えているように感じます。そういうことなどが、ほんとにホンの少しですけど、恩返しになればいいなぁ…と思います。
そして、レシピやお皿の向こう側にある、素材や料理の由来や歴史、いつも工夫を欠かさない視点、それらを育んだ沖縄の風土を、それを伝えてくれた山本さんを、けっして忘れずにいたい。そう思います。山本さん、本当にありがとうございました。支えて下さっていた方々も、本当にありがとうございました。(6月19日)