とうとう、その夜が来てしまった@琉球料理乃山本彩香(那覇市、沖縄)

先週末は、沖縄にいました。


その数日前に、夢ともつかぬ夢を見ました。その店で楽しむ最後の夜。並んだ料理を前にして、何だか分からぬうちに、涙が流れてきてしてしまう…というもの。こっぱずかしいのだけど、そんなふうになってもまぁ仕方がないな、と思ったのも事実。そして、とうとう、その日が来てしまった。


泣こうが笑おうが、ここの料理たちをコースで食べることができるのは、今月いっぱい。店の看板を見ながら、ふぅーっと深呼吸。
暑い時期、最初の一品は、"ゴーヤーしりしりー"。緑の部分を擂りおろし、ジュース仕立てにした食前の一杯。これで、暑さにまいっていた身体も胃も、目を覚まします。あぁ、本土の食材でも、こういうものを作れないかなぁ。
そして、サンゴ色のつけ汁を滴らせた、"豆腐よう"。国産大豆を使う豆腐に切り替えられてからは、よりまろやかで柔らかな味わい、さらに甘味が増したように思います。ちびちび食べながら、お代わりできるものって、そうそうあるものじゃないと思うんですよね。


前の晩は、こちらに出ているように、も〜のすごく濃密な時間が流れていたようです。それでもこの店の主は、一度人前に出たならば、それを相手に感じさせないように尽くす人。ベースは、長年続けられてきた踊りにあるのでしょう。レシピひとつにしても、言葉の由来や、歴史などを紐解きながら、あるべき姿を描いてそれに向かうという姿勢も、同じ根っこなのだと思います。山本彩香さんの生み出す"新しい料理"や"食材の活かし方"は、「おぉっ!」と思うのだけれど、決して「思いつき」とは思えない。例えばこの日は、間引きしたマンゴーの漬物(また、食べられてラッキーっ!)や豚の頭などを使った寄せ物(?)。

ひらめきは、練習量の上澄み。あの地殻を通った水の特質。
思いつきは、水溜り程度のもので、はねが上がれば迷惑ほどのものであります。

本の前書きで、こう述べているのは、山本さんよりもさらに十歳ほど年上の料理家・辰巳芳子さん。このお店の新作も、もちろん定番も、いくつもの上澄みの融合に違いありません。どの一品も、力や個性を持った器と組んでやって来ますが、負けるでもなく勝つでもなく、穏やかな景色の中に凛としたものを持っていることからも、そう思えます。


久し振りにお会いできた山本さんは、「チェンジとチャレンジ」を口にされました。自分の母親と変わらない御歳だけれど、今でも毎日誤魔化しが効かない味の舞台で過ごしている人。その言葉。刺激にならないはずはありません。次が楽しみな面もあります。しかし、、、しかし、とうとう、ひとつの区切りが来てしまったことに変わりはありません。今日で終わり。うぅぅ、仕方がないけれど、やっぱり寂しいです。。。。。(すみません)


最後の夜は、初めてのメンバーも含めて四人。いつも通りの"どぅるわかしー"、白味噌仕立ての"らふてー"や、島らっきょうのアクセントの効いた"そーみんたしやー"などなど、た〜っぷりと味わい、いつも以上に香り高く思える春雨を気持ち良く(けっこう)飲んで、話しを交わし、楽しい時間があっという間に過ぎてしまいました。そんな場を、何度も通いたくなる時間を、「ありがとうございます!」。結局、最後は、それを口にするのが、精いっぱいでした。


(10月下旬からは、お昼のお店をされると伺いました。

ていーあんだ 山本彩香の琉球料理

ていーあんだ 山本彩香の琉球料理

で紹介されている"長寿丼"などがメニューの候補としてあがっているようです)